消費税と損税 

 私は、たまたま、県立病院の平成17年度の決算書を見る機会に恵まれました。
 その中で、格別私の目をひいたのは数億円にのぼる雑損失という項目でありました。
 そして、その中身を確認してみますと、それは、「控除対象外消費税」というものでした。
 これはすなわち控除ができない消費税、いわゆる「損税」と言われるものであります。
 さらに厚生事業団の平成17年度決算書も取り寄せて見ました。厚生事業団でも2億円に近い「控除対象外消費税」が発生していたのであります。
 公立病院は公益性が高いと言う理由で、法人税は免税とされております。
 しかし、この損税によって、その意義は完全に消えてしまっているのであります。


 昭和50年、日本は第1次オイルショックを経て以来、経済成長が鈍化し、財政状態が悪化をしていました。
 当時、政府の最重要課題は財政再建であり、加えて直接税から間接税への移行論が台頭し、消費税導入が議論されていました。
 そして、平成元年に世論のはげしい反対を受けるなか、消費税法案が可決されました。
 その上、消費税法案は、成立からわずか3ヶ月という短期間で施行されたため、法体系についての議論が充分になされなかったきらいがあったのであります。


 消費税が導入された平成元年はまさにバブル経済の真っ只中でありました。そして、その直後からバブル経済が崩壊し、日本は未曾有の長期不況に突入していくのであります。
 消費税導入から8年を経過した平成9年、時の橋本内閣は、一気にデフレ脱出を図ろうとして、消費税率を3%から5%へ引き上げました。
 これによって、バブル崩壊後少し上向きになっていた景気を再び後退させることになったのであります。


 消費税は、生産及び流通のそれぞれの段階で、その販売価格に上乗せされますが、最終的に税を負担するのは消費者であります。
 消費税を導入する際に、厳しい国民的な抵抗があったために、より簡素で、しかも国民経済に深刻な打撃を与えないように極力配慮されました。
 その結果、帳簿方式、免税事業者、簡易課税制度、非課税事業者などの制度が盛り込まれたのであります。
 免税業者は、年間の課税対象売上高が3千万円以下の事業者がその対象となりました。
 また、簡易課税制度は、年商5億円以下の事業者が総売上高の一定比率の消費税を納めれば済むという制度であります。
 そして、この高い設定のためにいわゆる「益税」が免税業者及び簡易課税制度を選択した業者に残ったのであります。
 これは、欧米の制度と大きくかけ離れており、数次にわたる制度改正の結果、帳簿方式とともに欧米の制度にほぼ近づいたといえます。
 一方、消費になじまないもの、あるいは社会政策的配慮に基づいていわゆる非課税業者が指定されました。
 消費になじまないものとして、土地・有価証券の譲渡、社会政策的配慮に基づくものとして、医療・福祉事業、住宅貸付、学校教育などがあげられます。
 非課税業者は、収入の大部分を占める非課税取引で消費者から消費税を受け取ることができません。
 それに対して、材料の仕入れ、その他経費の支払い時、及び設備投資の際には、業者に対して、消費税を支払っているため、通常、預かった消費税よりも、支払った消費税のほうが多くなります。
 課税業者であれば、その差額が還付されますが、非課税業者の場合は当該業者が、最終消費者とみなされ、転嫁出来ない消費税を抱え込むのであります。これが、いわゆる「損税」であります。
 上記の様に、「益税」に対しては順次その解消がなされてまいりましたが、この「損税」については、今日まで、問題にされることはほとんどありませんでした。
 同じ非課税業者でも住宅貸付業者は、販売価格を引き上げて、これを転嫁することができますが、一人、公定価格で縛られている医療、福祉に関わる業者は「転嫁できない消費税」を抱え込み続けているのであります。
 きびしい医療、福祉改革が行われている現在、この「損税」を解消しておかなければ、医療・福祉が危機的な状況を迎えるに違いありません。


 残された消費税問題「損税」を解消する為には、ゼロ税率を含む軽減税率を採用することであります。
 西欧では、多くの国で20%前後の付加価値税を課しておりますが、日本のように単一税率をとっている国はなく、基本税率は高くても、軽減税率またはゼロ税率をもうけることによって、生活必需品の税率を低く抑え、庶民の生活を圧迫しないように配慮しております。
 これらの例にならって消費税制度をより完璧なものにすることは、税の公平、中立を守る為に絶対に欠かせない手続きであろうと思います。
 今や、医療・福祉に携わるものが力を合わせて戦う時がきたように思います。